映画『幕が上がる』は演劇少女を育てるか?

先週3月15日、映画『幕が上がる』を娘と見てきた。

ももクロの主演映画である、というのが一番の理由だけど、それとは別に、娘に演劇に興味を持ってもらえないだろうか、という期待も別にあった。

娘はこの春から中学生になる。小さな中学なので、クラブ活動の数も少なく選択肢が限られているが、できれば充実した学校生活を送れるクラブを選択してほしい。

奥さんと話し合って、演劇部がそこそこレベル高いみたいだし、物作りや人前に出るのが好きな性格から、向いているのではないか、なんて考えた。

ただ、いまぐらいの年頃の女子は、「なにがしたいか」よりも一緒に友達がやるかどうかが決め手となるらしい。今のところ、演劇部を洗濯する可能性は低そうだ奥さんはいう。

だけど、大好きなももクロが頑張っている姿を見れば、少しは変わるかも? などと浅はかに考えつつ、新宿バルト9に娘と向かった。

本広流、青春映画

『幕が上がる』の感想を一言で言えば、とても良くできた青春映画だった。本広克行監督は、大林宣彦の青春映画を目指したというが、大林映画の持つ青春の張り詰めた緊張感は確かにありつつも、大林映画独特の清純エロチシズムみたいなものはなくて、本広映画的でももクロ的な、カラっとした作品に仕上がっていた。

未熟な少女達がクラブ活動を通して成長する姿を描いた作品としては、矢口史靖監督の『スイングガールズ』も好きだった。マンガチックな細かいエピソードを積み上げながら、起伏のわかりやすいストーリーで、最後にコンサートシーンでウワーと盛り上がる、楽しい作品だった。

それに比べると、『幕が上がる』にはコミカルなエピソードはあまりなくて、もっとリアルで地味な地方の高校生の生活と内面が描かれている。

全体のストーリーもわかりやすい大団円ではないので、見終わったあとはちょっと不満を感じたのだが、1週間たった今でも、ふと熱いモノを感じる。

この熱さは、地道なエピソードを重ねたリアリティの上で、あのラストシーンがあったからこそだと、今になって思う。結果的に、とても心に残る作品となった。

ももクロを知らないほうが、楽しめる?

作中いろいろ、ももクロ関連ネタがぶっこまれていることについては、僕の知り合いのモノノフ(ももクロのファン)は、むしろ残念がっていた。

さおりが無理矢理部長を押しつけられたのは、引っ込み思案なのにリーダーに抜擢された百田夏菜子を思わせる。ユッコがさおりのベッドに入ってくるのは、玉井詩織がひとりで寝られなくて百田夏菜子とシングルベッドで一緒に寝ていたという有名なエピソードを連想させる。有力校からの転校生である中西さんは、EXPG(エグザイル系のダンススクール)の特待生出身で、あとから、ももクロに加入した有安杏果とダブって見える。

本広監督は、ももクロのために劇場を訪れるモノノフのためにサービスで入れたのかもしれないが、そういうネタがあると、さおりが百田夏菜子に、ユッコが玉井詩織に、中西さんが有安杏果にに見えてしまう。ちょっと興ざめなのは同感だ。

この映画を純粋に楽しめるのは、ももクロをよく知らない人のほうなのかもしれない。

主役はももクロ?

そういったモノノフ目線を外して見たとき、この映画には3人の女優が創り出す、一本の軸があると感じた。冒頭で予選突破を果たせず、それでも演劇の道を諦めず東京に旅立つ先代部長の杉田先輩(秋月成美)。その思いを図らずも受け継ぐことになってしまった新部長の高橋かおり。元学生演劇の女王でありながら、一度は演劇の道を諦めた吉岡先生(黒木華)。

この3人がそれぞれに描き出す演劇への情熱が、とても心に残る。個人的には、ももクロの映画というより、この3人を中心とした映画ではないかと思った。

それなのに、なぜか杉田先輩についてはパンフレットのキャスト一覧に載っていない。

『銀河鉄道の夜』が見たい

惜しむらくは、劇中劇の『銀河鉄道の夜』がなかなか良い出来なのに、本編の中では細切れにしか使われていない。スイングガールズが最後にコンサートシーンで盛り上がったみたいに、最後に劇中劇で盛り上げれば良かったのに、と最初は思った。

この映画のヒロインが演劇部の主演女優であるユッコ(玉井詩織)だったら、それが一番良いだろうが、実際のヒロインは演出家のさおりだったので、そうはいかなかったのだろう。しかし、この劇中劇のほうが、ももクロの各メンバーの演技力と魅力がよく伝わってくると思うのは僕だけだろうか?

この『銀河鉄道の夜』は、ももクロのUstreamで、稽古中のシーンも混ぜた形で配信されたが、できれば舞台版のフルバージョンを配信なり、パッケージ版のおまけなりの形で公開してほしい。

演劇部員は増えるだろうか?

一緒に見に行った娘が、一気に演劇ファンになったかというと、そんなことは全然なかった。そこらへんは、『スイングガールズ』を見てジャズをやりたくなったり、『けいおん!』を見てバンドをやりたくなるような、わかりやすい盛り上がり方はなかったので仕方ない。

原作者の平田オリザは、「高校受験が終わった中学生に観ていただいて、一気に演劇部員を増やしたいというひとつの期待があった」と言っていたが、そうなるだろうか? と疑問に思った。

数日後、小学校最後のクラスの「お楽しみ会」で友達と人形劇をやることになった娘は、「友達が約束したのに脚本を書いてこなかった」などと言っていた。

翌朝、いつも朝は起されても起きない娘が、珍しく早起きして書き物をしていた。

「勉強しているの?」

「脚本を書いてるの」

果たして、関係があるのか、ないのか。


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投稿者:

ともゆき@zubapita

ともゆき@zubapita

作ったモノ 雑誌:月刊アスキー(デスク)、アスキー.PC(副編集長)、インターネットアスキー(編集長)、アスキーPCエクスプローラー(編集長) Webサイト:東京グルメ/ライブドアグルメ、映画を語ろう、本が好き 著書:「Twitter 使いこなし術」「facebook 使いこなし術」 最近は、株式会社ブックウォーカーにて、「BWインディーズ」をやってます。

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