シンデレラはもういない?

またまた芸能アイドルネタである。最近の紅白に出るような人気女性アイドルって、苦労人が多い気がする。AKB48も、Perfumeも、ももいろクローバーZも、地道なライブ活動でファンを増やしてトップの座を手に入れた。声優として異例の紅白連続出場を続けている水樹奈々も、やはり歌手としては地道にライブ活動を続けてきた人だ。

昔は、長い下積み生活、苦労人といえば演歌歌手だった。それに対してアイドル歌手というのは、オーディションやスカウトをきかっけに大手プロダクションと契約し、デビューしてすぐにTVの人気番組に出て、そこで人気に火が付けば売れっ子になる。そうやって売れたアイドルたちは、一夜にしてスターへの切符を手にしたシンデレラ・ガールだった。

そこには、「実力はあるけど華はなく、地味な営業でじっくりと人気を浸透させていく演歌歌手」 VS 「実力はないけど可愛くて、事務所や大物プロデューサーやTVの力で偶像として作り上げられるアイドル歌手」という構図があった。苦労人のアイドルもいたけど、森口博子みたいに「バラドル」として人気を得ていったので、正統派アイドルとはちょっと毛色が違っていた。

昭和の女性アイドルを振り返ってみると、天地真理、山口百恵、キャンディーズ、ピンクレディー、松田聖子、中森明菜。いずれも「スター誕生!」などのオーディションを経てTVデビューを果たしたシンデレラたちだった。その後も「夕焼けニャンニャン」「モモコクラブ」、平成に入ってからは「ASAYAN」などがバラエティ兼オーディション番組として、多数のシンデレラたちを輩出した。

それが、いつの間にか紅白出場の女性アイドルは苦労人だらけである。

今はアイドル登竜門となるオーディション番組がないし、歌番組の数も減っている。そのためアイドルとして大成するためには、昔より多くの努力を必要とされるのか…と思ったんだけど、実際はどうなんだろう?

ということで、昭和のアイドルから“モモくろ”まで、トップアイドルがデビューしてから紅白初出場までどのくらいの期間を必要としたのか調べてみた。また比較のため、演歌歌手やアイドルの範疇に入らない女性アーチストも調べてみた。なお、1ヶ月単位で計算しているし、正確なデビュー月がわからない場合もあるので、多少誤差があることはご承知おきください。

 

歌手名 デビューのきっかけ メジャーデビュー 紅白出場 メジャーデビューに要した期間(A) 紅白出場に要した期間(B) A + B
天地真理 1971年6月 TBS「時間ですよ」従業員オーディション最終審査で落選。森光子に見いだされる 1971年10月 1972年 4ヶ月 14ヶ月 18ヶ月
山口百恵 1972年12月 NTV「スター誕生!」準優勝 1973年5月 1974年 5ヶ月 19ヶ月 24ヶ月
キャンディーズ 1972年4月 NHK「歌謡グランドショー」マスコットガール兼アシスタントとして結成 1973年9月 1975年 17ヶ月 15ヶ月 32ヶ月
ピンクレディー 1973年11月 ヤマハ「チャレンジ・オン・ステージ」合格、1976年12月 NTV「スター誕生!」合格 1976年8月 1977年 33ヶ月 16ヶ月 49ヶ月
松田聖子 1978年4月 CBSソニー「ミス・セブンティーンコンテスト」九州地区大会優勝 1980年4月 1980年 24ヶ月 8ヶ月 32ヶ月
中森明菜 1981年8月 NTV「スター誕生!」合格 1982年5月 1983年 9ヶ月 19ヶ月 28ヶ月
おニャン子クラブ 1985年4月 CX「夕焼けニャンニャン」内で結成 1985年7月 出場せず 3ヶ月
安室奈美恵 1992年春沖縄アクターズスクールでSUPER MONKEY’S結成 1992年9月/1995年4月(ソロデビュー) 1995年 6ヶ月 39ヶ月 45ヶ月
華原朋美 1993年「さんまのなんでもダービー」アシスタント、1994年4月 遠峯ありさとして「天使のUBUG」などに出演、1995年6月 小室哲哉プロデュースで華原朋美に改名 1995年9月 1996年 29ヶ月 15ヶ月 44ヶ月
SPEED 1995年春に沖縄アクターズスクール内で結成。1996年1月にNTV「THE夜もヒッパレ」でSPEEDと命名 1996年8月 1997年 17ヶ月 16ヶ月 33ヶ月
モーニング娘。 1997年9月 TX「ASAYAN」内で結成 1998年1月 1998年 4ヶ月 11ヶ月 15ヶ月
浜崎あゆみ 1993年4月 EX「ツインズ教師」出演 1998年4月 1999年 60ヶ月 20ヶ月 80ヶ月
AKB48 2005年10月 秋元康プロデュース「秋葉原48プロジェクト」第一期生合格 2006年10月 2007年(アキバ枠)/2009年(単独) 12ヶ月 14ヶ月/38ヶ月 26ヶ月/40ヶ月
Perfume 2000年春 アクターズスクール広島内で「ぱふゅ〜む」自主結成、2003年春「Perfume」 2005年9月 2008年 66ヶ月 45ヶ月 111ヶ月
西野カナ 2005年12月 角川映画とソニーミュージックアーチスツによる「スーパー・ヒロイン・オーディション ミス・フェニックス」で勝ち抜く 2008年2月 2010年 26ヶ月 22ヶ月 48ヶ月
ももいろクローバーZ 2008年5月 所属事務所内で結成 2010年5月 2012年 12ヶ月 19ヶ月 31ヶ月
演歌
小林幸子 1963年 TBS「歌まね読本」グランドチャンピオン 1964年6月 1979年 12ヶ月 186ヶ月 198ヶ月
石川さゆり 1972夏 CX「ちびっ子歌謡大会」合格 1973年5月 1977年 10ヶ月 55ヶ月 65ヶ月
坂本冬美 1986年 NHK「勝ち抜き歌謡天国」名人 4月から11月まで猪俣公章に弟子入り 1987年3月 1988年 11ヶ月 19ヶ月 30ヶ月
その他の苦労人
森口博子 10代よりスクールメイツに所属。1985年3月 NHK「勝ち抜き歌謡天国全国名人大会」で準優勝 1985年8月 1991年 5ヶ月 77ヶ月 82ヶ月
水樹奈々 1994年6月 「せとうちのど自慢10周年記念全国大会」グランドチャンピオン 2000年12月 2009年 78ヶ月 109ヶ月 187ヶ月

 

■かかる時間は同じでも、道のりが違う
こうやって比べてみると、かつてのアイドルはオーディションで合格することが、また演歌歌手の場合はのど自慢大会で優勝したことが、それぞれ登竜門となっている。メジャーデビュー(メジャーレーベルからのシングルの発売)までにかかる期間は、アイドルでも演歌歌手でも1年前後と変わらないようだ。ピンクレディー、浜崎あゆみ、Perfume、水樹奈々はメジャーデビューまで時間がかかっているが、これは小学生もしくは中学生から活動を開始しているため、助走期間が長くなってしまったと考えたい。

トップアイドルの場合、メジャーデビューから紅白出場までの期間は短くて1年、長くても2年程度。若くてキラキラしていることが最大の商品価値なので、短期決戦にならざるを得ない。それに対して演歌の場合は、歌がメインだから若さや可愛さは必須ではない。小林幸子のように15年かかる場合もあれば、坂本冬美のようにアイドル歌手並みのスピードで紅白出場を果たす人もいる。

AKBと“ももクロ”も、単純に時間だけで比較するとメジャーデビューまでの期間も紅白初出場に要した月日も、昭和のアイドルと比べて変わりが無い。ただ、最初から大勢の観客の前で華々しいデビューが用意されていた昭和のシンデレラたちに対して、AKB48の最初のライブは観客が7人しかいなかったし、“ももクロ”のスタートは代々木公園の路上ライブで衣装もマイクもなかった。Perfumeも最初のライブの観客は3人だったそうだ。そういう底辺を経験したアイドルは昔もいただろうが、紅白に出場するまで成功したものはいない。少なくとも20世紀中のアイドル市場でトップを目指すには、TVなど大手メディアの力を借りられるポジションにいる必要があったわけだ。

しかし、現代のアイドルは地道にライブを重ねてファンとの交流を繰り返しながら、コアなアイドル好きを手始めに徐々に一般層に認知を広げる方法で頂点を目指すことが可能になった。

Skiming

 

■ソーシャルメディアが変えるアイドルの売り方 
昔読んだマーケティングの本に商品を広く普及させる2つの戦略について書かれていた。ひとつは「ペネトレーション戦略」。大量の広告を打ち大量の商品を店頭に並べることで一気に数の多いフォロワー層に浸透させる。もうひとつは「スキミング戦略」。数が少ないが感度の高いイノベーター層アーリーアダプタ層から徐々に浸透を図るやり方のことだ。ペネトレーション戦略を行うには、大きなコストがかかるので大手企業や部門にしか行えない。弱小企業や部門がヒットを狙うには時間をかけてクチコミで広めるスキミング戦略をとるしかない。

20世紀のアイドルの売り方はペネトレーション戦略で、演歌歌手はスキミング戦略だ。しかし、21世紀の今はアイドルもスキミング戦略で売っていく時代になった。以前、NHKでデイブ・スペクターが初音ミクの人気について「いまの消費者はメディアに押しつけられたものより、自分がネットで“発見”したものを好む傾向がある」と言っていた。そういった消費者心理の変化が、アイドルをペネトレーション戦略で売ることを難しくし、スキミング戦略を展開しやすくした可能性はある。

ここで面白いのは、現代のアイドルもしくは女性歌手の市場戦略おいて、スキミング戦略がペネトレーション戦略に比べて時間がかかるとは限らないことだ。前述のように、AKBと“ももクロ”が結成してから紅白に出場するまでにかかった時間は昭和のアイドルと変わらない。AKBが26ヶ月、“ももクロ”が31ヶ月。それに対して、典型的なペネトレーション戦略をとったと思われる西野カナは、オーディション合格から紅白出場までに48ヶ月かかっている。

かつて小林幸子が15年かけた道のりを、“ももクロ”は1年半で踏破した。このスピードアップの理由は、YouTube、ニコ動、Ustream、2ちゃん、mixi、ブログ、Twitter、NAVERまとめ、などの各種ソーシャルメディアの普及にあると思う。これらのツールを使った熱心なファンたち(=アーリーアダプタ層)が、勝手広報マンと化して“ももクロ”のファン層の拡大に努めてきたことが、かなり威力を発揮しているはずだ。実は僕が“ももクロ”を知り興味を持ったのも、facebook→まとめブログ→YouTubeという3連コンボがきっかけだった。その後も、facebookやTwitterやニコ動、YouTubeを通して“ももクロ”の情報に繰り返し接触するうちにどんどん興味が強くなって、とうとうiTunesでアルバムを買ってしまった。

YouTubeには公式動画だけでなく、ファンによってアップロードされた膨大な非公式の“ももクロ”関連動画がある。その気になれば、デビュー直後の路上ライブから、インディーズデビューした曲、グループ名変更のインパクトを残した早見あかり脱退のいきさつを語る本人たちの談話まで、なんでも見ることができる。“ももクロ”の路上ライブは、大手事務所としては例外的に撮影OKだったそうで、最初からソーシャルメディアによる拡散を意識していた節がある。YouTube上の非公式動画も意図的に野放しにしているのかもしれない。

■疑似恋愛よりも青春
もうひとつ書いておきたいことがある。アイドルの売り方がマスからソーシャルに変わることで、アイドル歌手がファンに提供するものが質的に変わっていくのではないか?

昔から、アイドルのファンになるということは、そのアイドルと疑似恋愛をすることだった。そのアイドルの笑顔や姿態やしぐさや歌声にキュンとなるから、追いかけ続ける。歌を聴いたりPVを見たり写真集を眺めることで、永遠に満たされない恋心を慰める。歌が好きだからとか、生き方に共感しているとか、どんなきれい事を言ったところで、アイドルファンの本質は疑似恋愛である。それは長らく変わりのないことだった。

だけど、アイドルの売り方がマスからソーシャルに変わりつつあることは、アイドルとファンの関係が短期的な疑似恋愛から、もっと長期的な関係に変化してきているのかもしれない。いやすでにアイドルに求められるものが疑似恋愛よりも、全力全開で行われる歌や踊りのパフォーマンスによる、まるでスポーツを応援しているかのような共感や青春の仮想体験に変わりつつある気がする。アイドルと共に青春を体験するというのは秋元康が作品世界のなかでずっと得意としてきたことだが、体育会系アイドルとでもいうべき“ももクロ”の登場で、より一層「青春の仮想体験」が重要になってきていると思うのだ。
 

 

 

関連記事

投稿者:

ともゆき@zubapita

ともゆき@zubapita

作ったモノ 雑誌:月刊アスキー(デスク)、アスキー.PC(副編集長)、インターネットアスキー(編集長)、アスキーPCエクスプローラー(編集長) Webサイト:東京グルメ/ライブドアグルメ、映画を語ろう、本が好き 著書:「Twitter 使いこなし術」「facebook 使いこなし術」 最近は、株式会社ブックウォーカーにて、「BWインディーズ」をやってます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>