【書評】僕がアップルで学んだこと

この本が売れているらしい。「特に新しいことは書いてないんですけど、評判いいんですよ」と制作に関わった編集者が言う。僕も昔、編集記者としてアップルの挫折とスティーブ・ジョブズの復帰劇を現地で目撃した一人だったので、ちょっと気になり送ってもらった。

読んでみて正直、このタイトルはちょっと釣りだと思った。筆者は16年にわたってアップル・ジャパンと米国本社に在席し、副社長直前にまでいった人なので、アップル社内の話はもちろん真実だろうし、それなりに面白いのだが、話の核はそこではない。

この本は、筆者の松井博氏のビジネス論や人生論を説いたものだ。アップル社内での16年間の体験をネタに、企業はどう運営されるべきか、個人はどう仕事をすべきか、そして最後にはビジネスを離れてキャリアプランや人生論にまで踏み込んでいく。

最初、「新しいことは書いていない」というのは本当だと思った。死にかけていたアップルが奇跡的な復活を遂げた理由、日本の企業がアップルに勝てない理由、うまく行く仕事の進め方、会社で出世する方法、人生を前向きに展開する方法、すべておいて、よく知られている事実や当たり前のことが書いてある。

しかし、その当たり前のことの説得力が違う。類書によくある薄っぺらさがない。松井氏の実体験に裏打ちされた言葉だからこそ、整理整頓が基本とか、「準備・実行・後始末」という仕事のサイクルのあり方とか、早寝早起きの大事さを今更のように説かれても、スっと身体の中に染みいってくる。

松井氏の引き出しの多さもこの本を楽しくしている。ちょっとした心理学の引用などに「へぇ」とさせられるのは、かつて合気道の道場を経営していたとか、若い頃に世界一周の旅の出たとか、今は米国で新しい教育事業を手がけているなどなど、多彩な人生経験において自然に積み重ねたものがにじみ出ているからなのではないだろうか?

ユニークな話題もある。「社内政治」を正面から捉えて、前向きに勝ち抜くための心構えと方法論を説いているのだ。それも弱肉強食で知られるアップル社内で生き残ってきた体験から語られるのだから説得力があるし、グローバル企業だけでなく、日本の企業でも十分通用しそうな考え方が語られている。

僕のように擦れた読者にとって、この手のビジネス系新書で「読んで良かった」「人に勧めたい」という本はなかなかないが、希望に燃える若手や新人にも、同世代のベテラン・ビジネスマンにも、この本を薦めたい。読むことで、自分の中のもやもやした部分がスッキリ片付き、前向きな気持ちが沸いてくる。そんな本だと思う。


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ともゆき@zubapita

ともゆき@zubapita

作ったモノ 雑誌:月刊アスキー(デスク)、アスキー.PC(副編集長)、インターネットアスキー(編集長)、アスキーPCエクスプローラー(編集長) Webサイト:東京グルメ/ライブドアグルメ、映画を語ろう、本が好き 著書:「Twitter 使いこなし術」「facebook 使いこなし術」 最近は、株式会社ブックウォーカーにて、「BWインディーズ」をやってます。

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