初音ミクがヒットチャート1位に輝く日 または、バーチャルアイドルとしての初音ミクの進化について

 ふと気がついたら、初音ミクのPVが激しく進化していた。

 いつの間にか、映像作品としても、アイドルPVとしても、商業ベースのものにひけをとらないクオリティの作品が、複数のクリエーターから続々と発表されるようになっていたのだ。この傾向は、2010年初冬から秋にかけて徐々に加速し、2010年冬からは驚くほどの勢いで凄い作品が公開され続けている。


 【ボーカル・アンドロイドから少女アイドルへ=メルト】

 初音ミクをひとりの女性アイドルと捉えた音楽PVやダンスPVは、ブームの当初から作られてきた。初音ミクの発売が2007年8月31日。その20日後には最初のヒット曲『みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』がニコニコ動画に投稿され、さらにその1カ月後には、3D CGを使った同曲のPV『3DみくみくPC♪』が投稿されている。

 しかし、『みくみく〜』の主テーマとなっているのは、VOCALOID = 歌うアンドロイドであって、作品内はSF的要素とそれを中和するギャグ要素ばかりだった。初音ミクの「少女性」「処女性」についてはほとんど考慮されていない。
 
 もうひとつの初期の代表作となったOster-Projectによる『恋スルVOC@LOID』の投稿は9月13日でさらに早い。こちらは『みくみく〜』ほどの勢いはなかったが、「音楽」「アンドロイド」「少女」という初音ミクの3大要素を正面から取り上げた作品として、ボカロファンの支持を着々と積み上げていた。この作品の初音ミクは「あなたの実力ってそんなもの?」とユーザーを責めてみたり「あなたも頑張っているんだよね」と慰めるツンデレ気味な性格を見せる。アイドルとして重要な物語性があるのだ。この作品の3D CGによるPVも12月7日に投稿されている。
 同じ12月7日にアイドル=初音ミクにとって、もっとも重要な最初の作品『初音ミク が オリジナル曲を歌ってくれたよ「メルト」』が投稿される。彼とのデートに一喜一憂する10代の少女の気持ちを表した作品で、ニコニコ動画内では他作品を圧倒する大ヒットとなった。以後、supercellは、少女と恋をテーマにした『恋は戦争』『ワールドイズマイン』などを続々と発表し、いずれも初期の初音ミクを代表する大ヒット曲となった。
 これらの作品はいずれも初音ミクの「少女」の部分だけに着目し、「音楽」と「アンドロイド」の部分はまったく無視された。特にワールドイズマインのPVで描かれた初音ミクは、緑色の長いツインテールだけが目印となり、あとは普通のお洒落な女の子と描かれている。
 「メルト」以後の初音ミクは、さまざまな青春と恋の物語の代弁者としての役割を与えられる機会が増えていく。それこそ少女アイドル歌手のもっとも重要な役割だ。
【MikuMikuDanceによる進化】
 初音ミクの発売から半年を経ずして、もっとも重要なフリーソフトウェア『MikuMikuDance』が公開された。
 それまでのミクのPV作成は高価な商用の3D CGソフトを使って、モデリングやレンダリングを行わなかればならなかった。しかし、MikuMikuDanceの登場よって、フリーソフトウェアでしかもリアルタイムにキャラクタを動かしながらダンスの振り付けをできるようになった。
 初音ミクの登場によって、アイドルファンは、憧れの「少女の声」を自由に操る術を得た。それに加えてMMDが登場したことで、仕草や表情までも思うがままに操れるようになった。
 初音ミクPVの進化は、技術革新の賜だ。2008年2月に登場したMMDは短期間の間にバージョンアップを繰り返し、マルチモデル、物理演算、アンチエイリアス、セルフシャドウなど、高度な3D CGソフトの機能を次々と搭載していった。さらに外部ツールによってエフェクトやパーティクルの利用も可能になった。もはやCGアニメーションソフトとしては、たいがいの基本機能を備えてしまっている。
 これらの機能を使えば、よりなめらかで自然な表現のCGを描画したり、日常の雨や雪、ステージ上の炎やスパークなどリッチな表現を加えることができる。
 ボーカルソフトとしての初音ミクも進化している。2010年4月に発売された『初音ミク・アペンド」を加えることで、弱点だった滑舌の悪さやたどたどしさが押さえられ、より人間に近い歌唱が可能になった。
【具現化したアイドルのあるべき形=Lat式ミク】
 あまり気がつかれていないが、もうひとつの技術的なブレイクスルーは、「Lat式初音ミク」の登場だろう。初音ミクには公式な3Dモデルというものが存在しない。セガから発売されているゲームも含めて、3D映像で使用される初音ミクは映像作者が自分で作るか、ほかの誰かが作ったものを流用している。つまり、CG作家の数だけ初音ミクの立体化の解釈に種類がある。
 MMDに附属しているのは、あにまさ氏が作成したモデルだが、それを使用せずに自分でモデリングした独自のミクでPVを作成し、かつのその独自モデルを無償で公開している作家は多い。こうしたMMD標準のあにまさ氏製でないミクのモデルは、それぞれの作者のニックネームなどから「キオ式初音ミク」「ラブ式初音ミク」などと呼ばれ、なかでも最近人気が高いのがLat氏による「Lat式初音ミク」だ。
 Lat式ミクの特徴は、アンドロイド的、人形的な表現を極力を抑え、いわゆるアニメ絵的なやや幼さの残る美少女として初音ミクの姿を再構築したことだ。衣装も初音ミクオリジナルのSFアニメチックなものだけでなく、普段着に近いシンプルな白いノースリーブや、セーラー服の夏服や冬服も用意されている。トレードマークのヘッドホンを外したり、メガネ萌えのファンの心をキュンキュンさせる赤いセルフレームのメガネをかけさせることもできる。かろうじて初音ミクらしいと言えるのは緑の長いツインテールだけで、それすら短めのツインテールにしたり、ポニーテールにした改変バージョンが存在する。
 これらの改変バージョンを詳しくない人がみても、「初音ミク」だとは思わないだろう。
 Lat式ミクの人気は凄い勢いで、2010年夏以降に製作されたアイドル的要素のある初音ミクのPVの大半がLat式で作られており、ニコニコ動画ではそれらのPVに対して「Lat式かわいい」「Lat式マジ天使」とか、褒め言葉として「あざといな流石Lat式あざとい」といったコメントが画面を埋め尽くしている。さらに複数の会社からLat式初音ミクのフィギュアの発売が予定されている。
 映像表現の点でも歌唱の点でも表現力が大幅に進歩したところに、Lat式という少女アイドルとしてもっとも具現化しやすい素材を手に入れたことで、「VOCALOID」という特殊な括りが不要な、バーチャルアイドルとしての初音ミクが可能になった。
 今後、ますます初音ミクをとりまく状況は加速し、複雑化していくだろう。現在ですら、MMDを拡張する、MME(MikuMikuEffect)などのソフトや、クオリティの高い背景セットや画像が増えたおかげで、一昔前なら何百万円、二昔前なら何千万円くらいコストがかかったんじゃないかと思われるような美しい動画を自称「初心者」が「テスト」と言って投稿するような状況である。
 もはや、プロとアマの境界線はほとんどなくなりつつある。2011年3月にはsupercellの2ndアルバムが、オリコンウィークリーチャートで2位に入った。このアルバムじたいは初音ミク作品ではないが、歌っているのは、やはりニコニコ動画でボーカロイド用オリジナル曲を多数歌っていたガゼルことnagi氏だ。
 もう、いつ初音ミクの曲がヒットチャートの1位になってもおかしくないのである。
この動画がテストなんだそうです。

2007年
 8月31日 クリプトン・フューチャー・メディアから『初音ミク』が発売
 9月4日 ニコニコ動画に『VOCALOID2 初音ミクに「levan Polkka」を歌わせてみた』投稿。「はちゅねミク」、ネギが登場
 9月13日 『恋スルVOC@LOID』投稿
 9月20日 『みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』投稿
 12月7日 『初音ミク が オリジナル曲を歌ってくれたよ「メルト」』投稿。その後ニコニコ動画内で「メルトショック」という現象を起こすほどの大人気曲になり、歌ってみた、弾いてみた、踊ってみたとの交流が始まる。2011年3月11日現在、原曲だけで700万再生を超えている。
 12月18日 『みくみくにしてあげる♪【してやんよ】』がJASRACにアーティスト名「初音ミク」として登録。クリプトン・フューチャー・メディアとドワンゴ・ミュージック・パブリッシングが対立。その後、12月25日に和解。
2008年
 2月24日 樋口優氏が3D CGソフト『MikuMikuDance』を公開。あにまさ氏の初音ミクモデル同梱。
 3月31日 グッドスマイルカンパニーから『ねんどろいど 初音ミク』発売
 7月26日 第1回MMD杯予選開始。
 
 8月24日 日本SF大会にて第39回星雲賞自由部門を『初音ミク』が受賞
 8月27日 音楽サークルlivetuneがビクターエンターテイメントからアルバムCD『Re:package』を発売
 8月31日 『MikuMikuDance Ver.3.01』公開。マルチモデル化。
 12月12日 ユリイカ2008年12月臨時増刊号『ユリイカ 増刊号 総特集=初音ミク』発売
2009年
 1月13日 『踊ってみた】海外仕様ミク-どちらかというとはちゅね【コスプレ】』投稿。フランスのモンペリエ市庁舎内で行われたイベント「JapanMatsuri」内で初音ミクのコスプレをしたYumiko氏が初音ミクナンバーを踊りまくった映像。
 3月4日 『メルト』などを収録したsupercellのアルバム『supercell』が発売。1週間で5万6000枚を売上げ、オリコン週間チャート4位に入る。
 3月5日 『MikuMikuDance Ver.4.00』公開。初音ミクモデルVer.2が同梱。
 4月4日 秋葉等でyumiko氏の凱旋ライブ「yumiko featuring 初音ミク LIVE PARK IN AKIBA」開催。
 6月14日 『::初音ミク@Lat式 for MikuMikuDance::』投稿。MMD用Lat式ミクのモデルデータ公開。
 6月30日 to氏によるMMDツール「パーティクルクリエータ」公開。
 7月2日 セガよりPSP専用ゲームソフト『初音ミク -Project DIVA-』が発売。
 7月2日 『MikuMikuDance Ver.5.00』公開。物理演算機能を追加。
 8月22日 Animelo Summer Liver 2009 に初音ミクがアーチストとして出演。
 10月10日 『MikuMikuDance Ver.6.00』公開。描画エンジンをDirectX9に変更。アンチエイリアス対応。
 10月12日 ニコニココミュニティ「ミンカでいくらを食べるこずえ」でダンスユニット結成発表。10月22日に「DANCEROID」というユニット名が発表される。
2010年
 1月15日 『MikuMikuDance Ver.6.10』公開。セルフシャドウ機能追加。
 2月13日 『【第4回MMD杯本選】Chaining Intention【PV】』投稿。第4回MMD杯で優勝。
 3月9日 この日を「ミクの日」として、ライブイベント「初音ミク・ひるコンサート 〜こんにちは、初音ミクです。〜」、「初音ミク・ソロコンサート 〜こんばんは、初音ミクです。〜」を開催。半透明スクリーンに表示されて歌い踊る初音ミクの映像が話題になり、その後さまざまな海外メディアで紹介された。
 4月4日 NHK-BS2 『MAGネット』内で初音ミク特集。『【第4回MMD杯本選】Chaining Intention【PV】』が放送される。
 4月17日 「【DANCEROID FES!! vol.1】」開催。ミンカ・リーが卒業。
 4月30日 追加音源『初音ミク・アペンド』が発売。
 5月19日 EXIT TUNESよりコンピレーション・アルバム『EXIT TUNES PRESENTS Vocalogenesis feat.初音ミク』発売。発売1週間目で2万3千枚を売り上げ、5月31日付オリコン週間チャートにて1位。
 9月18日 舞力介入Pが『【MikuMikuDance】エフェクトファイルを読めるようにしてみた』投稿。『MikuMiKuEffect』を公開。
 12月19日 『MikuMikuDance Ver.7.24』とKinnectモーションキャプチャドライバ公開。

関連記事

投稿者:

ともゆき@zubapita

ともゆき@zubapita

作ったモノ 雑誌:月刊アスキー(デスク)、アスキー.PC(副編集長)、インターネットアスキー(編集長)、アスキーPCエクスプローラー(編集長) Webサイト:東京グルメ/ライブドアグルメ、映画を語ろう、本が好き 著書:「Twitter 使いこなし術」「facebook 使いこなし術」 最近は、株式会社ブックウォーカーにて、「BWインディーズ」をやってます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>