iPadやiPhone 4に搭載されている「Apple A4」について、ちょっと気になったので調べてみた。
Apple A4は、CPUやGPUを統合したシステムチップだ。 Appleがデザインし、Samsungが製造している。iPhone 3GSと同じCPUとGPUをワンチップに集積し、1GHzにクロックアップしたものとして紹介されている。しかし、CPUクロックが600MHzから1GHzになった程度では、それほど劇的な性能アップにはならない。それで画面解像度が4倍になったら動作はもっさりと遅くなるはずだが、iPadは軽快に動作する。さらにHDクオリティのビデオ再生までこなす。その秘密はどこにあるのだろう?
Apple A4の内訳を見ると、CPUにはARMのCortex-A8、 GPUにPowerVR SGXを採用している。これらは、最近の高性能スマートフォンによく採用されているポピュラーなもので、Apple独自のものはない。前にA4を分解して分析した記事で「ここには新しいものは何もない」と評したものもあった。しかし、さらに調べるとA4が単なる集積チップではないことがわかる。
CPUのCortex-A8は、ARMが2005年10月に発表した携帯機器向けのCPUだ。スマートフォン向けCPUとしてヒットしたARM11と同等の消費電力で「デスクトップPC並の性能を発揮する」とされた。Cortex-A8は、iPhone 3GSに採用されたほか、クアルコムのスマートフォン向け統合チップ「Snapdragon」にも採用され、XperiaなどのAndroidフォンにも搭載されている。
Apple A4の場合、Cortex-A8コアを1GHzで駆動するだけでなく、L2キャッシュを標準の256KBから2倍以上の640KBに増やし、メモリとのデータバスも倍の64bit幅に拡張している。これがiPadやiPhone 4の圧倒的なパワーの源泉だ。
GPU部分はPower VR SGX 535 + VXD375だという。Power VR SGX 535もモバイル機器のGPUとして非常に成功した製品で、IntelのAtom向けチップセットのGMA500にも採用されている。iPhone 3GSのGPUは当初PowerVR SGX 520だとされたが、その後iPhone OSにSGX 535のドライバが含まれていることやベンチマーク結果からSGX 535であることが定説となっている。つまり、GPUはiPhone 3GSもiPad / iPhone 4も変わらないことになる。
果たして、同じGPUで4倍の広さの画面をより速く表示できることが可能なのだろうか? Cortex-A8を拡張したように、PowerVR SGX 535でもデータバスの拡張が行われたりしていないのだろうか?
VXD 735はPowerVRのビデオデコード用のIPコアで、HDクオリティのビデオをデコードできるという。iPhone 4がHDビデオを撮影・編集できるのは、このVXD 735の採用が効いているのだろう。
最後のポイントは消費電力で、A4の採用によって、iPadやiPhone 4はロングバッテリーライフを実現していると、Appleはいう。
2007年にAppleが買収したCPU設計会社のP.A. semiは、低消費電力でハイパフォーマンスなCPUを作ることを得意としていた。A4にはP.A. semiのチームは関与していないという説も流れたが、iPadの驚異的なバッテリの持続時間を見ると、そこにP.A. semiの技術の存在があるのではないかと感じる。
ただ、残念なことのP.A. semiのメンバーの多くは、iPad発表後にAppleを離れて別会社を設立したそうだ。彼らがAppleに在籍し、A4プロセッサを作り上げる課程で、その技術の遺伝子が多少なりともAppleに継承されていれば、いいのだが。
iPhone CPU比較表
機種名 | iPhone 3G | iPhone 3GS | iPhone 4 |
---|---|---|---|
システムチップ | Samsung S3C6400 | Samsung S5PC100 | Apple A4 |
CPUコア | ARM1176/412MHz | Cortex-A8/600MHz | Cortex-A8/1GHz |
CPU L1キャッシュ | 16KB+16KB | 32KB+32KB | 32KB+32KB |
CPU L2キャッシュ | N/A | 256KB | 640KB |
CPUメモリバス幅 | 32bit | 32bit | 64bit |
GPUコア | PowerVR MBX-Lite | PowerVR SGX 535 | PowerVR SGX 535 + VXD 375 |
RAM | 128MB | 256MB | 256MB |
参考
[Apple A4]
Apple A4 – Wikipedia, the free encyclopedia
iPadを分解、高速なメモリー・アクセスが可能なことが明らかに | EE Times Japan
[ARM Cortex-A8]
ITmediaニュース:携帯機器でデスクトップPC並みの性能──ARM「Cortex-A8」
[iPhone 3GSのハードスペック]
iPhone 3G Sは、Cortex A8プロセッサとPowerVR SGXGPUを搭載か | iPhone 3G Wiki blog
iPhoneとiPod touchの違い – iPhone 3G DevWiki
Apple drops space in ‘iPhone 3G S’ – AfterDawn
[Apple A4とP.A. semi開発チーム]
【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】 iPadにカスタムチップを開発したAppleの戦略
「Apple A4」プロセッサの開発メンバー、アップルを去る | EE Times Japan
[PowerVR]
PowerVR – Wikipedia, the free encyclopedia
[Snapdragon]
ケータイ用語の基礎知識 第409回:Snapdragon とは
Snapdragon (processor) – Wikipedia, the free encyclopedia
iPhone 4のRAMは512MBですよ。