継続は力なり – Magic Mouseにみる一貫性こそApple成功の秘訣

 昔、アップルがつぶれかけたとき、「ハードとソフトの両方を自社で開発しなければならない点が弱点」「Macを売るハード会社と、Mac OSを売るソフト会社に分割するべき」とアナリストとか、業界の偉い人が口々に唱えた。ちなみに、パームはそれを実際にやったのだけど、それで奇跡の大逆転は起きなかった。

 一転してアップルが絶好調な今は、「両方やってるから強い」という主張が一般的だ。たとえば、以下のエントリもその流れの中にあると思う。

Appleほどではないが、Googleの株価回復も目覚ましいが、両社に共通しているのは、User Experienceに対して100%責任を負うという姿勢だろう

[From 404 Blog Not Found:売上6倍、時価総額6割 – HPとAppleに学ぶ、デザインの力]

   

 両方やっているから弱いとか強いというのは、結果論に過ぎない気もするのだが、ここで屋上屋を重ねるごとく、もうひとつ結果論を言ってみたい。

 それは、継続性の話だ。ことユーザーエクスペリエンスに関しては、アップルはずっと継続的だった。

 数年前に、Mac Plusの上で漢字Talk 1.0とExcel 1.0を動かしてみたことがある。とても感心したのは、今のMac OS Xで最新のExcelを使うのと、基本的な使い方、というか「使用感」がほとんど変わっていないことだ。明らかに未完成でMac OS 9と併売されていたMac OS X 10.0〜10.2を除けば、Macが提供するエクスペリエンスはずっと安定してきた。

 過去25年間に、アップルはMacのCPUを2回、OSの土台も1回取り替えている。そのたびに、ユーザーやサードパーティに負担をかけてきた。マイクロソフトやインテルが、OSやCPUの内部構造を「作りがつぎはぎで汚い」と罵られながらも、後方互換性を重視して漸進的に製品を進化させてきたのと対照的だ。

 いっぽう、ユーザーインターフェイスについてみれば、アップル製品が継続性を重視して徐々に進化してきたのに対し、マイクロソフト製品はWindows 1.0、2.0、3.0でメジャーバージョンアップのたびに、大幅に作り替えてきた。あげくWindows 95では結局Mac OSによく似たものにして大ヒットしたわけだが、XPからVistaの切り替えでもまたも進化を求めたのだが、ユーザーからの支持は得られなかった。

 Mac OSは、過去25年間、強力なユーザーロイヤリティに支えられてきた。そのロイヤリティが帰属する場所は、一部のマニアを除けば、CPUの種類やOSの出自ではなく、「Macを使っている」という気分、使用感だとアップルはわかっているのだと思う。

 だから、その気分、使用感を守るために、非合理的な決定もあったと思う。

 アップルは、結局2ボタンマウスを作らなかった。パソコンでGUIが広まりだしたとき、アップルは1ボタンマウスを採用し、マイクロソフトは2ボタンマウスを発売した。シンプルさがウリのMacに1ボタンマウスはよく似合っている。しかし、使ってみればWindowsの右クリック操作は明らかに便利だ。Macでもケンジントンやロジクールからマルチボタンマウスが発売されたり、USB時代になってからはPC用2ボタンマウスを使えるようにする拡張ソフトが現れたりした。

 Mac OS 8以降は、Windowsの右クリックに相当するコンテクストメニューを採用し、Mac OS XではOS標準機能の大半で右クリックをサポートするようになった。それでも、アップル製2ボタンマウスは現れなかったし、PowerBookもMac Bookもボタンは一種類だけだった。

 その間にマイクロソフトは、ホイールマウスという画期的な発明をした。ボタンを増やすと便利になるようで使いこなしが難しくなる。ホイールマウスはボタン数を2つに押さえながら、ホイールという第3のボタンを付加することで、操作性を飛躍的に向上させた。Mac OS Xは、当然のようにホイールにも対応している。

 それでもアップルはシンプルなワンボタンにこだわり続け、その結果現れたのが、1ボタンマウスとしても使えるが、最高4ボタンとして使えて、上下に加えて左右のスクロールも可能なMighty Mouseだ。Mighty Mouseを出す前に、つなぎで純正2ボタンマウスを出してもよかったと思うのは、素人の浅はかさだろう。「Macらしさ」にこだわった結果、Mighty Mouseにたどりつくまで、マルチボタンマウスを出さなかったのだと思う。

 マイクロソフトは、スクロールマウスを発明したが、アップルはiPhoneを作り出す課程でマルチタッチを発明した。マルチタッチは徐々に搭載製品の幅を広げ、ついにマウスにまで搭載された。それがMagic Mouseだ。

 Mighty Mouseは、「1ボタンとしても使える」が、中央にボールの突起があるので、アップルが目指す究極のシンプルさからすれば、まだ未完成、通過点的な製品だった。しかもこれが故障しやすい。せっかく光学マウスになって機械部品をなくしたのに、スクロールボールを搭載することで、またもや機械的弱点を増やしてしまった。

 Magic Mouseは、マウスの上面をマルチタッチ・トラックパッドにするという、ほとんど冗談のような発想を、技術とデザイン力で美しく実用的な製品に昇華させた。そしてなにより、「シンプル」というMacやアップル製品に共通するコンセプトを体現して見せた。

 この「シンプル」に対する徹底的なこだわりと継続性こそが、アップルが顧客を引きつけ続け、現在の成功にいたった理由だと思う。個人的にはWindowsが使いにくいとは思わないが、Apple製品全体に一貫した「シンプル」の心地よさが一度身にしみると、そこから離れるのが辛くなる。「シンプル」には、まるでドラッグのような習慣性がある。

 そうやって考えると、ギル・アメリオCEO時代のMac互換機路線とかCHARPベースの低価格Macとか、Macの「シンプル」というコンセプトを危うくする施策が、いかにトンチンカンであったか、今になってようやくわかる。

 恐るべし。スティーブ・ジョブズ。

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投稿者:

ともゆき@zubapita

ともゆき@zubapita

作ったモノ 雑誌:月刊アスキー(デスク)、アスキー.PC(副編集長)、インターネットアスキー(編集長)、アスキーPCエクスプローラー(編集長) Webサイト:東京グルメ/ライブドアグルメ、映画を語ろう、本が好き 著書:「Twitter 使いこなし術」「facebook 使いこなし術」 最近は、株式会社ブックウォーカーにて、「BWインディーズ」をやってます。

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