梅田望夫:日本のWebは「残念」でもいいじゃん

 例によって、寡聞にして知らなかったのだが、えがちゃんに「梅田さんの件どう思います?」と聞かれたので、ちょっと書いておく。

2006年2月、梅田望夫さんが著した「ウェブ進化論」(ちくま新書)は、インターネットの可能性やGoogleの力をポジティブに語り、国内の「Web 2.0」ブームに火を付けた。

(中略)

だがここ最近は、Webについて語ることは少なく、昨年11月にはTwitterに書き込んだコメントが炎上するという“事件”も起きた。

(中略)

 3年前、Googleを賞賛し、Webの可能性を力強くに語った梅田さんが今、Webについて語ることを休み、一流の棋士たちに魅了されている。

 梅田さんは日本のWebに絶望し、将棋に“乗り換え”てしまったのだろうか——記者は新刊からそんな印象を受け、梅田さんに疑問をぶつけた。

[From 日本のWebは「残念」 梅田望夫さんに聞く(前編) (1/3) – ITmedia News]

 「日本のネットは米国とは違うものになってしまった」という梅田氏の主張だが、たしかにそういう部分はある。

 先日のnobiさんの件でも触れたけど、日本のネットはほとんどが匿名だし、ブログは個人が意見表明する場と言うよりも、プライベートな日記を公開する場として認知されている。SNSは人脈を広げる場所ではなく、知った仲間が集まって時間と空間の壁を越えてマッタリするための場だ。

 日本語版のWikipediaでは、同じ言葉があるとたいていは、アニメやマンガのキーワードが優先される。科学、歴史、宗教など、あらゆるキーワードに関連項目としてアニメやマンガのタイトルが付け加えられている。まるで、日本人全員がサブカルを常識として生きているかのようだ。

 でもその代わり、日本のWebでは2ちゃんねるやニコニコ動画で、日々面白いことや凄いこと、感動的なことが起きている。ニコニコ動画と初音ミクが起こしたムーブメントの破壊力は、マンガやアニメといったサブカルの枠を超えて広がりつつある。

 ただ、梅田氏はそれにまったく興味がない。

【もとから溝があった】

 今回の件で判明したことは、梅田氏は日本のWeb文化の中ではマイノリティだった、というだけのことだ。

 彼自身が、「僕は漫画読まないしアニメみないしさあ。」とハッキリと表明しているように、今の日本のネットで膨大に情報が行き交っているサブ・カルチャーには関心がない。ハイブロウな知の世界を好んで生きているそうで、彼が「Web進化論」でWeb2.0に寄せていた希望は、学問とか高度な経営など、すごく知的レベルの高い人たちが高め合っていくための、知の共有ツールとしての面だけだ。それ以外の、どこのお店の料理が美味しいかとか、どのマンガが面白いかといったようなことに、Webが活用されようがされまいが、たぶん関心がなかった。

 だけど、「Web進化論」を読んだ人の大半は普通の日本人だったので、当然にように、今の日本で主流のサブカルチャーにWeb2.0が活用された。

 本を書いた梅田氏と彼の読者の間には、最初から大きな溝があった。それが、最近になってようやく明確になってきた。そういうことだろう。

 そもそも、「Web進化論」が書かれる前から、日本にはさまざまなWeb2.0的なCGMのサービスが存在していて利用者を集めていた。僕が月刊アスキーの連載で、ビジネス的に軌道に乗りつつあるCGMサービスの起業者をインタビューして回って聞いたとき、異口同音に「ちょっとは仕事しやすくなったけど、基本的にWeb2.0ブームは関係ない」と言われた。東京グルメ(現ライブドアグルメ)を作った僕自身もそう思っていたので、非常に得心がいった。

 「Web進化論」は、あの時点でのWebの状況を、ビジネスマンのオヤジたちにわかりやすく説いた点で、偉かった。だから売れた。だけど、梅田氏の著作が日本のインターネットシーンに与えた影響は、まったくないか、あったとしても微々たるものだろう。

 たぶん、「Web進化論」の恩恵をうけたWeb2.0企業があるとしたら、梅田氏が取締役をつとめる「はてな」だけじゃないだろうか? 

 もともと、騒ぐようなことじゃないのだ。

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投稿者:

ともゆき@zubapita

ともゆき@zubapita

作ったモノ 雑誌:月刊アスキー(デスク)、アスキー.PC(副編集長)、インターネットアスキー(編集長)、アスキーPCエクスプローラー(編集長) Webサイト:東京グルメ/ライブドアグルメ、映画を語ろう、本が好き 著書:「Twitter 使いこなし術」「facebook 使いこなし術」 最近は、株式会社ブックウォーカーにて、「BWインディーズ」をやってます。

“梅田望夫:日本のWebは「残念」でもいいじゃん” への4件のフィードバック

  1. ピンバック: 小鳥ピヨピヨ
  2. ピンバック: 陣形を整えよ

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