ジョブズ再研究:MACPOWER 2009 vol.1

4月 20th, 2009

 金曜日、家を出ようとしたらアスキーから速達。戻って開けてみると、昔なじみの編集者からMACPOWERの最新号が送られてきていた。

 送り状には「ブログで紹介して欲しい」とある。わざわざ速達で送ってくれたのは嬉しいけど、特集は「スティーブ・ジョブズ伝説」。えー、またかい。最近こういう本が多すぎじゃない? と思ったけど、そうでもなかった。参りました。

 スティーブ・ジョブズは、いまやIT業界のみならず、その一挙手一投足が産業界・経済界から注目されている。なにしろ、Apple II、Lisa、Mac、NeXT、iPod、iTunes Store、iPhoneと、世の中に強い影響を与えるハード、ソフト、サービスを30年間生みだし続けてきた、まさにIT業界のヴィジョナリ(予言者)なのだから。

 しかし10年前はそうではなかった。ジョブズの名前はIT業界の人にしか知られていなかったし、特に日本では終わった人だと思われていた。1996年末にAppleがNeXTを買収したあと、親しい他社のMac系編集者は「なんで終わったOSをいまさら買ったのか」と吐き捨てた。MacWorldの観衆はジョブズの基調講演のたびに熱狂していたし、Mac系雑誌記事も持ち上げていたけど、僕の皮膚感では、Mac系ジャーナリストの間では「未来は明るい」とみんなが信じているわけではなかった。当時はBeOSとジャン・ルイ・ガセーこそMacとIT業界の未来であり、NeXTとスティーブ・ジョブズは過去だったのだ。


MACPOWER 2009 Vol.1 (アスキームック)(マックパワー編集部)

 1997年夏のボストンで、ジョブズの基調講演にビル・ゲイツが登場したとき、マックコミュニティの不安は頂点に達した。みんなが大好きだったMac互換機はジョブズの手で徐々に死に向かっていた。Appleの誇るべきもう一つのプラットフォームであり、「PDA」という言葉の始祖となったNewtonの開発も停止した。ソフトウェアの未来となるはずだったOpenDocも消滅した。Appleが描く先進的な未来を信じていたMacユーザーは、ジョブズの復活により、進むべき道を見失った。その上、「仇敵」Microsoftに資金援助して貰うという屈辱。「Mac OSのコアがWindowsNTになるんでしょ」という噂をボストンのどこかで聞いてきた有名Mac系ライターの某先生が顔をしかめていたを思い出す。

 もともと、NeXTを買う前に、SunのSolaris、Windows NT、BeOSの3つが次期Mac OSの候補として検討されていた、というのは後にあきらかになったこと。この古い話がビル・ゲイツの登場とともに掘り起こされて、尾ひれがついて、ボストンの街をかけめぐっていたのか。とにかく、それくらい当時のマックコミュニティは動揺していた。

 まして、日本の新聞にいたっては、朝日新聞の「Mac白旗」の見出しとか、すべての新聞がAppleがMicrosoftに負けて、買収されたかのように報じた。僕のいた月刊アスキー編集部もふくめて、非Mac系の編集者もこの手の一般誌報道を鵜呑みにする人間がいた。PCやWindowsに詳しい編集者やライターでもMacについては無知で、頓珍漢なことを言う傾向があったから仕方ない。

 以上については、当時の僕の個人的な体験だ。

 今回のMACPOWERの「スティーブ・ジョブズ伝説」では、過去12年のAppleとMacをめぐる動きを毎年のジョブズの基調講演を通して分析した「スティーブ・ジョブズ×MacWorld Expoの12年」を掲載している。特に上記の1997年のボストンの基調講演については全文が掲載されていて、解説記事とあいまって当時の状況をわかりやすく浮き彫りにしている。ユニークなのは、各基調講演の記事が過去形ではなく、現在進行形で書かれており、当時不明なことは不明なまま掲載されていることだ。これは、当時のMACPOWERの記事を再掲載したということなのだろうか? とにかく当時の熱気がよくわかって面白い。1984年のMacintosh発表会についても抄録とはいえ、かなり細かく紹介されている。

 さらに、Apple II、初代MacintoshとそのOS、付属ソフトウェアのMacPaintとMacWriteについても詳しく解説され、NeXTとPixarについても、それなりに紹介されている。全体的にジョブズの仕事がいまのコンピュータにどれだけ強い影響を与えたかがよくまとまっている。「WindowsはMacの真似」「MacはXerox Altoの真似」という不毛な論議がいまだに行われているのかどうか知らないが、少なくとも、AppleがLisaとMacでどれほどのオリジナルティを発揮し後世に影響を与えたかが、ビル・アトキンソン提供のLisa開発中の画面写真のおかげでよくわかる。

 というわけで、今回のMACPOWER送ってくれて凄く嬉しいです。元Mac系編集者として、個人的研究家として、資料の本棚に大切に保存させていただきます。

 なお、悪名高いジョブズのエキセントリックな言動については、この特集ではほとんど触れられていない。MACPOWERはゴシップ誌ではないので、その編集方針は正しいと思う。

 そういうのが読みたい人は、以下の書籍をどうぞ。

生い立ちから、iPodとPixarによる成功までを描く、ジョブズの彷徨と成長の物語。ジョブズの酷さがよくわかりますが、最終的にはいい話としてまとまっている。


スティーブ・ジョブズ-偶像復活(ジェフリー・S・ヤング, ウィリアム・L・サイモン)

すでに絶版なんだけど、NeXT時代のジョブズの苦闘を冷ややかな目で描いた力作。ジョブズの美意識やこだわりが裏目に出ると、いかに酷いことになるか、という話。

ジョブズ礼賛のいまこそ、再版してほしい。

スティーブ・ジョブズの道(ランドール ストロス)

以下は、参考書籍

初代Macの開発スタッフのひとりが編纂した、Mac開発スタッフの証言集。

当時のジョブズがスタッフから見てどんな人物だったかわかります。かなり凄いです、ハイ。


レボリューション・イン・ザ・バレー―開発者が語るMacintosh誕生の舞台裏(アンディ ハーツフェルド)

MacとWindows、そしてインターネットやDTP、CGやマルチメディアなど、現在のIT産業の原型を作り出したXerox PARCの物語。

Macユーザーとしては、GUIパソコンの原型「Alto」の開発ストーリーと、最後にジョブズが登場してPARCの人材がAppleに流出するあたりが興味あると思うけど、のちにPixarになる人々の苦労も描かれていいる。上記のiConの前に読んでおくと、ジョブズの酷さがより実感できます。


未来をつくった人々―ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明(マイケル ヒルツィック, Michael Hiltzik, 鴨澤 眞夫, エ・ビスコム・テック・ラボ)

これも絶版かな。

ジョブズの前のApple CEOで、ジョブズを救って、ジョブズに追い出されたギル・アメリオの恨み節。

ジョブズの成功は、その前にアメリオがリストラを断行して憎まれ役となってくれたことが基礎にあるんだけど、最近のジョブズ絶賛本はそれを無視しすぎだと思う。

次期Mac OS 選定で、ジョブズがガセーに勝ったいきさつとか、ゲイツが怒った話も書かれていて、資料的価値は高いと思うので、絶版は残念。

アップル薄氷の500日(ギル・アメリオ, ウィリアム・L・サイモン)

P.S.

当時は、eWeekみたいなIT系の新聞も、日本経済新聞とかも、

「デスクトップOSは、今後Linuxがシェアを伸ばし、Windowsの領域を浸食する」

と書かれていて、Mac OSは未来には存在しないかのようだった。

なんで、そんな記事が横行したからといえば、みんな未来を見ずに、そのときの流行の尻馬に乗っていたからだと思う。

だから。今のジョブズ万歳の記事だって、未来を見通して書いているわけではないんじゃないの?

って言いたくなるよね。

P.S.2

今回のMACPOWERには

「Xcode 3プログラミング入門」

(WebブラウザやPDFビューアを自分で作る!)

「PowerPCマシン徹底活用術」

(Mac OS 10.4による各種サーバー構築術)

など、ほかの記事もけっこうボリュームがあって、役立ちそう。

あとで、ゆっくり読ませていただきます。

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